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東京地方裁判所 昭和55年(タ)265号 判決 1980年10月03日

原告

甲野花子

右訴訟代理人

藤井孝四郎

被告

ドン・ホセ

主文

一  原告と被告とを離婚する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一  原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求原因として次のように述べ、<証拠関係略>。

1  原告(昭和一二年九月七日生)は、日本国民であるが、昭和五一年四月に南米のペルー及びチリを旅行した際、チリの首都サンチアゴ市において、シェラルトンホテルのボーイ長をしていた被告(昭和二〇年五月一三日生、国籍チリ)と知り合い、帰国後も文通を続けた。その間、被告は、来日して就職し原告と結婚したいと希望するようになり、原告もこれに同意したので、被告は、同年一〇月八日来日し、右両名は、右同日、前記被告の日本における最後の住所地のアパートにおいて、同棲するに至つた。その後、被告の日本在留期限である昭和五二年二月五日が迫つてきたところ、滞在延長のためには一旦出国して新たに査証を取得する必要があり、また、原告は、被告の再入国のためには同人と正式に婚姻することが何かと便宜であると判断し、同年一月二八日東京都中央区長に対し、被告との婚姻の届出をなした。

2  原・被告は、同年二月四日東京を発つてメキシコに渡り、原告の旧友木村真智子方に寄寓し、同国内各地を旅行した。その後、原告は勤めの関係で、同月一九日単身帰国し、被告は、引き続き右木村方に滞在して、日本再入国のための査証の申請手続をしていたが、まもなく、被告は、日本再入国を断念し、別の女性と交際するようになり、同年六月二二日には行先も告げずに右木村方を出て、その消息を断つた。原告は、その後今日に至るまで、数回に亘りメキシコに赴き、同国内に在住する友人の協力を得て被告の行方を捜し、また同国人管理局に対し被告の居所捜索依頼をなし、その上、アメリカ合衆国テキサス州エル・パソにいるとの情報を得て、同市に赴いて捜したが、被告の行方は杳として不明である。

3  従つて、被告は原告を悪意で遺棄したものであり、しかも原被告間の婚姻関係は既に破綻しているから、原告は、被告に対し、日本民法七七〇条一項二号、五号に基づき、原告との離婚を求める。

二  被告は、公示送達による呼出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面を提出しない。

理由

一<証拠>を総合すれば、請求原因1、2の事実は全て認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

二法例一六条によれば、本件離婚の準拠法は、その原因事実発生当時における夫たる被告の本国法、すなわち、チリ共和国の法律によるべきところ、西暦一八八四年一月一〇日施行の同国婚姻法は婚姻解消の効果を伴う離婚はこれを認めず、同法における離婚は夫と妻の共同生活を停止する効力を有するにすぎず(同法一九条)、前記認定の本件原被告間の婚姻関係の実情は、同法二一条七号ないし八号の定める離婚原因に該当するものの、右の理由をもつてしては、期間五年を超えない一時的な離婚(夫と妻の共同生活の停止)を宣言しうるに止まるものと解される(同法二〇条、二二条、二三条)。しかしながら、本件においては、妻たる原告は日本国民であつて、被告と婚姻する以前から日本に居住しており、また、原被告の夫婦共同生活も日本において営まれ、しかも原告は夫たる被告から悪意をもつて遺棄され、被告の所在すら三年以上もの間不明であるところ、かかる場合にまで、なお夫の本国法であるチリ共和国の法律を適用して、一時的な原被告の共同生活の停止を認めるに止めるとすることは、わが国における公の秩序・善良の風俗に反するものといわざるを得ない。従つて、本件については、法例三〇条により前記チリ共和国の法律の適用を排斥し、法廷地法であるわが国の民法を適用すべきものと解するのが相当である。

そして、前記認定の事実によれば、被告の右行為は日本民法七七〇条一項二号に該当するとともに、原被告間の婚姻関係は既に破綻しその同復が期待できないことは明らかであつて、同条一項五号にも該当するものというべきであるから、原告の本訴離婚の請求は理由がある。

三よつて原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(牧山市治 古川行男 池田光宏)

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